『　佐屋街道をあるく　(1)　金山追分から神守宿　』

佐屋街道は、嘉永十一年(1634)、徳川第三代将軍、徳川家光が上洛する為、 整備された道であるが、大坂夏の陣へ向かう徳川家康が佐屋を通ったとの記録もあり、 それ以前から道としては既に存在していたと言われる。　
寛文六年(1666)、東海道の脇往還として、幕府の道中奉行が管理する官道に指定されたが、 参勤交代の大名行列、幕末にはオランダ商館のシーボルトや十四代将軍家茂、 また、明治維新で明治天皇もこの道を通行している。　
この道は、宮宿から佐屋宿までの道で、その先は、川を下って桑名宿へ通じていたので、 七里の渡しの風雨による欠航時や船酔いを嫌う旅人に利用され、非常に賑わっていた、と いう。　

金山の追分から岩塚宿

東海道の宮(熱田)宿(現在の伝馬町一丁目）の三叉路の東南隅の民家の片隅に、 字が消えかかっている道標がある。　

「　ここは、東海道と美濃路・佐屋道の追分で、 道標は寛政弐年(1790)に建てられたもので、 道標の「東」　と刻まれた下には、　とある。　
さやつしまは佐屋、津島で佐屋道を指し、みのちは美濃路である。
この道標は、東に東海道の江戸方面、北に名古屋と木曾路、南は七里の渡しを表示していて、 追分のこの場所に 寛政２庚戌年に建立したものである。 」

江戸時代、東海道を歩く旅人は、宮宿から七里の渡しで桑名に渡ったが、 風雨による欠航や船酔いを嫌う旅は、ここで北に道をとった。　
道標に「 北 さやつしま(佐屋津島)　同みのち(美濃路)　道 」とある道は、 現在は、国道19号線になっている、
この道を神宮西交叉点、新尾頭二丁目交叉点、新尾頭交叉点と進むと、 金山新橋南交叉点に出る。
右側の金山駅前にはＡＮＡのホテルグランコート名古屋が入っているビルがある。　

この金山新橋南交差点が、江戸時代の美濃路と佐屋街道の追分で、 交差点の左手前に、佐屋街道の道標と説明板がある。　

説明板
「　文化四年（一八二一）に、佐屋街道の旅籠仲間が、 伏見通りから尾頭橋へ抜ける佐屋街道の追分にあたるこの地に建てたものである。　
戦災に遭い破損したが、その後修理された。　
道標には、　「　東　右　なごや　木曽　海道　」、　「　西　右　宮海道　左　なこや道　」、 　「　南　左　佐屋海道　津しま道　」、　「　北　文政　辛巳年　六月　佐屋旅籠屋中　」　と刻まれている。」

従って、佐屋街道は、ここが起点で、現在は県道115号である。　
道は少し下り坂になり、歩道には四十センチ〜五十センチ角のタイルが埋めこめられている。
タイルには「佐屋街道」の表示があり、真ん中に街道が通り、左右に松並木の絵が描かれていた。　

少し歩くと、正面に背の高いマンションが見え、その前に橋が架かっていた。　
これは堀川に架かる橋で、尾頭橋(おとうばし)である。

「　堀川は名古屋城を築城する際、物資を運ぶために造られた運河で、 名古屋城西の龍の口から、広井町、日置町、古渡町と下って、熱田の西で海に注いでいた。　
堀川には五条橋、中橋、伝馬橋、納屋橋、日置橋、古渡橋、尾頭橋の七橋が架けられ、 両岸には、尾張藩の米倉や商家の納屋が並び、河口には船蔵、白鳥貯木場や材木奉行所などが置かれた。　」

小生が名古屋に来た昭和50年頃は、製材や木工など木材関係の会社が立ち並んでいたが、 材木の消費が少なくなった現在、マンションやその他のビルが増えた。　

今日は日曜日で、九時過ぎというのに、歩道の右側は、ぞろぞろと歩いて行く人が多い。　
途中の喫茶店も満員で、名古屋独特のモーニングサービスを受ける人かなあ、と思ったが、 橋を渡ったところで分かった。　
そこには、交通整理の人が四人もいて、 ぞろぞろときた皆が、右に曲がって行く先に、ＪＲＡのウインズ名古屋があったのである。　

小生は、ここから単独行になった。　
右側に中川税務署、その先には尾頭橋交差点があり、右折すると名古屋駅方面、津島・佐屋は直進である。　
交差点を渡ると、尾頭橋商店街であるが、金山周辺にスパーやモールが出来たことにより、 商店街はかっての賑わいはない。
ここには和菓子の老舗・亀屋芳広がある。

正面に新幹線のガードがあり、東海道新幹線が通り過ぎて行くのが見えた。　
ガードをくぐるとすぐ、右側に唯然寺という寺がある。　
街道には面しているが、小さな寺で、自由に中には入れそうもない。　
ここに、津島街道の一里塚碑があるというので、のぞきこんだがそれらしいものはない。　
道の反対から寺を見ると、門の左側の植木の間に石碑が見えた。　
これは注意しないと見つけられない。　
ここにあった一里塚は五女子一里塚と言われていたようである。　

五女子バス停があり、説明板がある。
このあたりは五女子(ごにょうし)で、その先の左側は二女子(ににょうし)である。　

説明板
「　 昔、古渡村の裕福な家に、七人の娘がいた。　 彼女達は近在の村々に嫁ぎ、それぞれが多くの子を産み、子孫繁栄した、といい、 そこから、一女子から七女子までの地名となった。
今、残っているのは二女子と四女子と五女子である。　」　

名古屋には、難解な地名が多い。　
御器所(ごきそ)、泥江町(ひじえちょう)、水主町(かこまち)、十六町(そろくまち)、 八事(やごと)など・・　
このあたりは古そうな家が数軒あった。　

八幡本通２西交差点を越えると、左側の中川福祉会館前に、佐屋街道碑があった。

説明板「佐屋街道」
「　寛永３年（1626）と１１年（1634）の三代将軍徳川家光の通行を契機として整備が進められ、 寛文６年（1666）には幕府の道中奉行が管理する官道に指定された。　
この街道は、熱田（宮）宿と桑名宿を結ぶ七里の渡しの風雨による欠航や、 船酔いを嫌う多くの旅人が行き交い、東海道の脇往還として非常に賑わっていた。　
商用や社寺参りの人々、参勤交代の大名行列、 さらにはオランダ商館のシーボルトや１４代将軍家茂、明治天皇もこの道を通行している。　
永年にわたり日本の幹線道路網の一部を担ってきたこの街道も、 明治５年（1872）の熱田と前ヶ須新田（現：弥富町）を結ぶ新道の開通によりその役目を終え、 現在では地域の幹線道路として親しまれている。　」　

少し歩くと、中川運河の手前の左側に、明治天皇御駐蹕(ちゅうひつ)之所碑があった。

「　 明治天皇は、江戸城に入るため、明治元年九月二十六日、ここを通り、同年十二月十八日、 京都へ戻る為、ここを通ったが、その際、ここで小休止された。　」

その先の中川運河に架かる長良橋は、あいにく、橋は架け替え工事中で、仮橋を渡る。　
上流の小栗橋は、古代の東海道が通っていたところである。　
鎌倉時代の照手姫伝説に登場する小栗判官にゆかりのある名前である。　

名古屋環状線と交差する長良町３交差点は直進する。
渡った左手にある万念寺は、浄土真宗大谷派のお寺で、本尊は定朝作と伝える阿弥陀如来立像である。　
この像は、「　万念という僧侶が、池の近くを通ると池の中から　「　万念や！！万念や！！　」　と呼ぶ声がするので、池の水を干してみると出てきた。　」　という言い伝えがある。　
このあたりは長良町で、右側に三軒続きの二階建ての建物があった。　
比較的古そうに見え、佐屋街道の雰囲気が感じられた。　

その先の左側に、長良郵便局と常磐駐在所があるが、ここで左の小道を入ったところに、広場があり、クスノキの古木の前に、明治天皇御駐輦(ちゅうれん)之所碑が建っていた。　

「　明治天皇は、東京に遷都するため、明治弐年三月十六日、再びここを通り、 東京に向かった。　その際、小休所となったのがここなのである。　
駐輦とは、「　天子が車をとめる。　天子がご滞在になる。　」　という意味で、碑の背面には、 　「　明治二年三月車駕東幸ノ際此所ニ御小休シ・・・　」　と、刻まれている。　　」

松葉町一交差点を過ぎると、鉄道高架橋をくぐる。　
最初は第三セクターのあおなみ線、続いて、ＪＲ関西本線、そして近鉄名古屋本線である。　
くぐったすぐ右側に、近鉄烏森（かすもり）駅がある。　
江戸時代は、ここから先に松並木があったようであるが、 今は右側の家の一角に、二本の松が植えられているだけである。　

街道から右に入ったところに八幡社がある。
本殿の左側にある安政元年建立の常夜燈は、柳街道の道標を兼ねたもので、 「 左なごや道　」　と書かれている。　

街道に戻り、少し歩くと、左側にお茶販売店があり、この建物は少し古そうである。　
道の反対にある烏森郵便局を右に入る細い道は柳街道である。

「　 ここが柳街道の追分で、先述の八幡社の常夜燈はここにあったのである。　
柳街道は、佐屋街道の烏森から、米野村、牧野村を経て、祢宜町に通じる道で、 名古屋城下から佐屋街道へでる近道だった。　
道に柳が植えられていたことから、その名がついた。　
烏森は、佐屋街道の立場だった。　
なお、佐屋街道の立場は、ここと秋竹、埋田(うめだ)だったが、後に砂子橋西袂、 日光橋西袂も立場として認められるようになった、という。　」

烏森には、その先左手にも、中二階で格子がはまった古く大きな町屋があった。

豊国通６交差点を越えると、並木町というバス停があるが、 江戸時代には烏森から岩塚に至るこの辺りまで、松並木が続いていたようである。
道の左が並木地区、右が岩塚町で、 岩塚町四丁目交叉点左側の中菱エンジニアリングの奥には三菱重工の工場がある。　
岩塚石橋交差点を越えると、江戸時代には岩塚宿の入口だったようである。

交差点を越えた左手に一里山という地名がある。　
一里山は一里塚の別名なので、街道はもう少し南にあったのかもしれない。　

岩塚宿・万場宿から神守宿

岩塚宿と川向こうの万場宿は、二つで一宿とされ、月の前半は万場宿、 後半は岩塚宿が交代でつとめていた。　
岩塚宿は、佐屋街道で最初の宿場であるが、四町九間(約500ｍ)の長さに二百十二軒の家があり、 千三十八人の人が住んでいた。　
本陣は一軒、問屋場が一軒、旅籠が七軒と少ない。　

その先には古い家もあり、特に右側の格子造りの立派な家は、 当時の歴史と関わりがありそうな家に思えた。
光明寺の北側に、寛永十三年(1636)設置の問屋場があったというが、 これなのかなあ、と思ったが、確認できなかった。　

見陽山光明寺は、道の左側の鐘楼を兼ねた山門がある曹洞宗の寺で、 本尊は行基が造ったと伝わる地蔵菩薩である。　
門を入ると、左にイブキ、右にクロガネモチの立派な木があり、名古屋市保存樹に指定されている｡　
その先には三十三観音の祠や幕末の学者篠田政忠の頌徳碑などがあった。　

光明寺の隣にある八幡社の拝殿の奥の鞘堂は茅葺で、その中に小さな本殿が祀られていた。
八幡社の奥にある遍慶寺の山門の脇に、「岩塚城趾」の石標がある｡

「　尾張の守護、斯波氏の臣、吉田守氏が城主で、子孫は代々織田氏に仕えたが、 後に福島正則に滅ぼされた。　」　

街道に戻ると、その先には堤防が見え、少し上り坂になっている。　
左側に屋根が銅板で囲まれた家があるが、茅葺だった家に違いない。　
その先には、右側に高札場があり、左側に川高札が建っていたようである。　

右に入る狭い道の角に、車で折られたのか、半分は地面に埋まり、かろうじて、 「 七社 」　と読める道標が建っている。
碑の一面にある、「 キヨス本町　柴山　」は、寄進者の名だろう。　

そのまま歩くと、庄内川の堤防に突き当たった。　
上っていくと、庄内川は川幅は広いが、手前は市民菜園のようになっている。　
江戸時代には、このあたりから対岸の万場宿に渡しがあった。　

右手に、名古屋高速5号万場線が通る二階建ての万場大橋が見えた。
今は渡しがないので、万場大橋に向かい、堤防の道を歩く。
この道には車がどんどん来て、歩道がないので、神経を使って歩いた。　
やっとの思いで、万場大橋に出た。　

前述の七所神社は、右手の高速道路番場線の下にあるので、立ち寄ることにした。
バス道を歩いて行き、下に降りると、七所神社が鬱蒼とした樹木の中にあった。

説明板「七所神社の由来」
「　尾張地名考に、「　岩塚村に延喜式の愛智郡御田神社、 本国帳の従三位御田天神とあるのは七社天神をいうなり　」　とある。　 保存されている神鏡に、元慶八年(884) 御田天神の銘があることから、創建はその頃と考えられている。　
現在の七所社に威容を整えたのは、岩塚城主の吉田守重である。　 このことは尾張誌に、「　熱田七社を祀る故に社号を七社という。　 応永三十二年(1425)に、吉田治郎右衛門守重、社殿修造す　」　とある。
（中略）
尾張三大奇祭の一つ、きねこさ祭は、旧暦一月十七日に斉行され、厄除けに特に霊験があると、伝えられる。　」

社殿の右手奥には、「日本武尊腰掛石」の石柱が建ち、右側に御腰掛石由来、 左側に大きな石がある。

御腰掛石由来石碑文面
「　景行天皇四十年に日本武尊は東夷征伐の勅を奉て、 転戦四年ことごとく之を平定し給ひ、 凱旋の時に大河の渡船を待つましばらく御腰を掛け給える石なり、　七所社御縁記略記　」

その先には、円墳のようなものがある。　
境内には三つの塚(円墳)があり、日本武尊東征伝説にまつわる日本武尊腰掛石とあわせて、 岩塚の地名の由来になっている。　

街道に戻り、庄内川に架かる万場大橋を渡る。
道の反対側に行き、万場大橋の左側に設けられた歩道をてくてく歩き、橋を渡り終えたら、 直ぐ左へ折れ、堤防の道を歩く。　
右下に県営住宅を見て進むと、県営住宅が途切れたあたりの土手下に鳥居と社が見える。　
土手を下りて行くと、右側に秋葉神社があった。

「　 秋葉神社には、鳥居の両脇に天保十三年(1842)建立の常夜燈が建ち、拝殿の先に小さな本殿があった。　
秋葉神社は、元は百メートルほど南の万場宿の東端にあったがここに移転してきた。　」

神社の反対側に、木の火袋が乗った常夜燈がある。
万場の渡しの秋葉山常夜燈で、安永六年(1777)の建立で、「明治三十一年」と刻まれた石柱は、 架橋された欄干石だろう。

説明板「万場宿跡」
「　万場宿は、佐屋街道の万場の渡しをはさみ、岩塚宿(中村区)と向かいあって、 寛永十一年(1634)に御伝馬所に指定され、宿場が置かれた。　
この両宿場は近距離にあったため、制度上は一宿と見なされ、月の上半月を万場宿が、 下半月を岩塚宿が交代で人馬継立の役務を行った。　
明治五年(1872)、御伝馬所は廃止された。　」　

実際は、この説明板から百メートル南に、 堤防から下る道が続くところにあったのが佐屋街道の万場宿である。

「　庄内川の西側の堤防の下に渡し場があり、万場宿は、そこから六町十間(約700ｍ)の長さ に、家数百六十軒、六百七十二人の人が住んでいた。　
本陣と問屋場は一軒づつ、旅篭は十軒である。　」

道の左側には、古い家が数軒並んで残っていた。　
玉石で積んだ土台に背の低い中二階、黒板壁の家は、街道時代の雰囲気を感じさせてくれた。

右側の空地の一角に、「南無妙法蓮華経」と書かれた題目碑があり、 その隣に小さな祠が建っていた。　
その先の右側に、「ち丶の観音医王山覚王院」の石柱がある。
「　観音様のお告げで、境内にある乳の木の実を食べたら、乳の出が良くなった。　」　と、いう言い伝えが残る観音である。　

覚王院の隣に神社があり、鳥居の右側に、「郷社 延喜式 国玉神社」　、左側には、「郷社 八剣社」　と二つの石柱が建っている。　
国玉神社に明治元年に八剣社を合祀したので、二つの石柱が建っているのである。　

「　国玉神社の創建は古く、 尾張誌 によれば、　尾張大国霊神社（稲沢市国府宮）より、 勧請したという。　
延喜式神名帳 に、国玉神社、　本国神名帳 には、従二位国玉名神　と記載されている式内社である。　
明治元年に八剣社を合祀した。
祭神は両神社の大物主大神、天照大御神、草薙剣御霊、日本武尊である。　」

万場宿から神守宿へは一里半余(約７ｋｍ)である。　
神社の前の道は、佐屋街道(東海道の脇往還）で、南西曲がり角は万場宿の高札場となっていた、という。
そこには石仏を祀った木の祠があった。　
神社の角を右に曲がると、左側に馬鹿でっかい石灯籠があった。　
灯籠は光円寺のもので、傘になる石が大き過ぎて、火袋が押し潰されそうな感じがした。

「　 光円寺は、もとは天台宗で、医王山瑠璃光院薬師寺と称したが、 嘉禄元年(1225)に一向宗に改宗、臥龍山蓮華院光円寺とした。　
山号の臥龍山の金字額が掛かる立派な山門は、 織田信長と斉藤道三が会見した富田村聖徳寺(一宮市)の山門を移築したものである。　」

万光円寺を過ぎると、街道は北西方向に斜めに進む。
頭上に名古屋高速５号万場線が走るところに出る。　
信号交差点には「万場」とあるが、交差点を渡り、更に北西へと進むと、 右側に浅間神社の石柱と、「市場の切り」と書かれた幟が翻っていた。

神社を過ぎると、名古屋市(中川区)から、海部郡大治町になる。　
道は左、右に曲がりを数回繰り返し、川沿いに北に進むと砂子橋に出た。　

「　 この川は新川で、庄内川の洪水を防ぐため、放水路として作られたものである。　
工事は、天明四年(1784)から着手され、天明七年に完成した。　」

新川の砂子橋を渡ると、古い家に新しい家が混在した住宅地である。　
更に西へと進むと、右側に、「 村社 十二所神社 」の石柱と常夜燈が一対と石の鳥居があり、 参道が先へと延びている。　
道は、その先で右に曲がるが、そのまま進むと、左側に冨田山玉泉寺がある。　
それを見ながら進むと、交差点に出た。　
交差点の北西の角の家のカーブミラーの隣に、「 高札場跡（旧佐屋街道）」　と書かれた標柱があった。　
佐屋街道はここで左折であるが、道の反対側に、地蔵堂がある。　
小さなお堂であるが、彫刻も施され、入母屋の屋根には、装飾瓦が乗っていて、 なかなかのものであるが、風雨による瓦の崩れが少し心配である。　

更に右に行くと、左手にお寺があり、道脇に、「本尊薬師如来　自性院」　の石柱が建ち、 奥に山門が見えた。　
そのまま進むと、交差点になるが、左右の道は前述の十二所神社の参道で、左折すると、 十二所神社の社殿があった。　

その左の民家の一角に、栗田直政記念碑が建っている。

「　栗田直政は、文化四年(1807)、大治町砂子で生まれ、神官の家に生まれたこともあり、 尾張で名高い国学者になった。　
日本最古の源氏物語の研究書、源氏物語遠録の著者である。　」

十字路まで戻って、佐屋街道を西へ進む。　
右側の民家のガレージ前に、常夜灯と大きな題目碑が建っていた。　
左側の道の角に、石で盛地をした上に、白壁と板囲いの蔵がある屋敷があった。　
右側に、地蔵堂があり、道の先には、東名阪自動車道の高架橋が見えた。　
高架橋手前の右手に、稲荷社があるが、拝殿前にあるのは、狐ではなく、狛犬だった。

その先で、右に入って行くと、大治南小学校がある。
以前は「従是馬嶋明眼院道」の道標があったようである。　

「　明眼院は、平安時代延暦二十一年(802)に、聖円上人により開かれた寺である。　
元弘、建武の乱で一部が焼失したが、延文弐年(1357)に清眼僧都により、再建された。　
清眼僧都により、馬島流眼科が創始され、寛永九年(1632)には後水尾上皇第三皇女の眼病治療により、 明眼院の院号を賜まったという眼病治療院として全国に知れ渡っていたところである。　」

その先で、東名阪自動車道をくぐる。　

「　 東名阪自動車道は、左に行くと名古屋西ＪＣＴで、先にくぐった名古屋高速と合流する。　
右に行くと甚目寺、清洲方面である。　　」

東名阪自動車道の下には、信号交差点の稲家交差点がある。

「　 道の右側は大治町であるが、左側は名古屋市中川区千音寺である。　
交差点を直進すると、三叉路の左に入ったところに、七所社神社がある。　」

この辺りに千音寺一里塚跡があるはずと思ったが、分からなかった。　
その先の右側は、東尼ヶ塚、続いて西尼ヶ塚と、塚が付く地名が多い。　
道は右にどんどんカーブして行くが、そのまま進むと、狐海道東交差点に出た。

「　 昔、千音寺村から次の西条村にかけての佐屋街道は、家一軒ない淋しい所であった。
千音寺には狐に化かされたという伝説もあり、夜間の旅人の提灯の火が狐火のようであったことから、 狐街道とも呼ばれた、という。　」

交差点を左折すると、西条交差点で、右からの県道68号名古屋津島線と合流する。
車が突然増えたのには驚いた。　交差点の先の右側に八剣社があった。　

「　 金山からの佐屋街道で、これまでにいくつかの八剣社を見てきたが、これらは 全て熱田神宮の別宮である八剣宮を勧請したものである。
熱田神宮の南門の鳥居をくぐった左側にある八剣宮は、和銅元年(708)に、 勅命により神剣を鍛造し、境内に社を建てて、神剣を納めたことが社の始まりで、 古来より武家の信仰が集め、天正三年の織田信長の長篠出兵の際には、 信長は社殿の修造を命じた。　
慶長四年には、徳川家康が拝殿、回廊などの修造を行っている。　」

少し歩くと、福田川に架かる秋竹橋を渡る。　
橋の先は海部郡七宝町(現在はあま市七宝町)である。　
一つ目の秋竹信号交差点の右手に、「藤嶋神社」 の石柱があるので、右折して数百メートル進むと、 社殿があった。

「　 藤嶋神社の創建は、天武天皇の白鳳四年(676)で、延喜式尾張百二十一座の一つに数えられた神社で、 祭神は市杵嶋姫命(いちきしまひめのみこと)である。　
伝説によると、このあたり一帯は、洋々たる蒼海にして、所々に州(しま)が点在し、 その一つが藤島だったと伝えられ、古くから、この地は藤島と呼ばれていたという。　」

街道に戻り歩くと、小切戸川があり、それに架かる秋竹西橋を渡る。　
七宝役場前バス停前に、黒塀で囲った広い屋敷があった。

このあたりには古そうな家が二、三軒建っていた。　
七宝町役場は左側二百メートルのところにある。　

「　七宝町の前身・旧秋竹村は、万場宿から一里、神守宿までは二十七町の距離にある。
ここは佐屋街道の立場で、七軒ほどの茶店があり、旅人の小休所になっていた。　　」

その先の七宝役場北交差点の西北角に、七宝焼原産地碑が建っている。
碑の正面に、「 七宝焼原産地 寶村ノ内 遠島 」、その上部に、ローマ字で、「 Ｓｈｉｐｐｏｙａｋｉ　 Ｔｏｓｈｉｍａ 」　とある。　
碑の横には、「 従是六町、明治廿八年八月建之 」　と刻まれている。　

「道標の脇の説明板」
「　七宝焼(尾張七宝)は、江戸時代末に服部村(現名古屋市中川区富田町) の梶常吉により創始され、 七宝町の町名の由来ともなっている。
七宝町においては、当時の遠島村の林庄五郎が、梶佐太郎より技法を伝授され、 その後、遠島村を中心として広まった。　
この道標は明治28年に建てられたもので、碑の上部にローマ字で、 Ｓｈｉｐｐｏｙａｋｉ　Ｔｏｓｈｉｍａ、とある。　
明治時代には、七宝焼は輸出の花形であったことから、外国人が直接買いつけに来ていた ことなどから、このようなローマ字の道標が建てられたといえる　」　

前述の遠島村が安松村と沖之島村と合併して寶村になったのが、明治二十三年のことである。　
その後、寶村は井和村と伊福村と合併し、七宝村になり、現在は七宝町になっている。　
なお、七宝町は、加賀藩前田利家の正室まつの生誕地である。　

少し歩き、右側の小路を入って行くと、林七宝店があり、その先で突き当たった三叉路の正面に、 八剣社と熊野社があり、道の手前には秋葉社があった。

安松交差点を過ぎると、下田地区であるが、ここからは集落はとぎれ、左右は実りの秋だった。
佐屋街道、今は県道68号名古屋津島線を歩き続けると、右手に背の高い鉄塔が見えてきた。　
その横まで行くと、東海ラジオの送信所の看板があった。　

少し小高いところにある川は蟹江川で、川に架かる橋名は下田橋であるが、左側の歩行者専用の橋には、 弓掛橋のプレートが付いている。　
同じ橋で、自動車用と歩行者用で、橋の名前が違うのは大変珍しい。
弓掛橋の由来は、橋を渡った辺りに源義経が松に弓を掛けた場所があったということで、 近くの民家の裏庭に石碑があるということだが、確認していない。　

下田橋を渡ると、右手に七宝病院がある。　このあたりは自動車販売店が続いている。　
右側は莪原裏で、七宝町(現在はあま市下田莪原)　、左は津島市宮東で、 街道から左に入ったところに、また、八剣社があった。
莪原交差点を過ぎると、七宝町も終わりを告げ、津島市の表示に変わった。　
莪原は、はいばらと読むが、珍しい名前である。　
津島市ふれあいバス、神守口バス停の先から道は右にカーブし、神守町交差点に出る。　
この交差点の左右の道は、西尾張中央道(県道65号)である。　　
神守宿はもうすぐ。　

旅をした日　平成２０年(2008)９月２８日（金山の追分〜大治町）
　 平成２０年(2008)１０月７日（金山の追分〜七宝町）

(注）今回の旅は、妻に借りたカメラのバッテリーが切れたため、 平成２０年９月２８日は大治町で終了となり、１０月７日に再度、地下鉄岩塚駅から旅を続けた。　

mrmax 街道の旅　目次 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続　き　(神守宿〜津島市佐屋街道終点)