栗原宿は勝沼宿より三十一町三十六間のところにあり、宿場の長さは六町、本陣が一、脇本陣が一、旅籠が二十軒、
家数は二百四十軒、人口は千五十余人だった。
毎月四、九の日に六斎市が立ち、物資の集散もあって、茶屋などが立ち並び宿場は繁栄していたという。
勝沼宿から栗原宿
勝沼宿を出ると、まもなく甲州市勝沼町等々力に変わる。
右手奥に仙光寺、円成寺、光源寺、慶専寺、専立寺、報恩寺、浄蓮寺が連なるように建っている。
その先の等々力交差点で、右からの国道411号と合流する。
国道を右へ進めば、塩山を経由し、柳沢峠越えて奥多摩へ、
雁坂トンネルを抜けると奥秩父へと続く道である。
甲州街道は国道411号直進する。
交差点の先の右側に等々力郵便局があるので、右折して細い道に入り、
その先の交差点を右折すると、玄正寺、その奥に万福寺がある。
「 万福寺の正式名は等々力山万福寺で、
杉御坊とも呼ばれた浄土真宗のお寺である。
縁起によれば、 「 604年に聖徳太子の命によって創建されたという古刹で、
はじめは法相、天台、真言という三つの禅宗の道場だったが、
安貞二年(1228)、遊説中の親鸞が立ち寄り教えを受け、
寛元二年(1244)に浄土真宗に改宗した。 」 とあり、
杉御坊とは、親鸞聖人が逗留した時、箸を地面に刺して念仏を唱えたところ、
杉の大木になったことの故事による。
なお、杉御坊の名の由来になった杉の大木は枯れて残っていない。」
境内には聖徳太子がこの地を訪れた時、乗っていた馬の蹄が石の上に残った、
と伝えられる「馬蹄石」という大石がある。
また、寛政年間に建立の芭蕉句碑がある。
「 行駒の 麦に慰む やどりかな 芭蕉 」
この句は野ざらし紀行に記されている。
「 野ざらし紀行は、松尾芭蕉が亡くなった母の墓参のため、
貞享元年(1684)旧暦八月から翌年四月にかけて、
東海道から伊勢街道経て伊賀上野へ行き墓参りを済ませ
その後、大和、大垣、名古屋などの門弟を訪れ、伊賀で越年した。
翌年、京都、大阪、名古屋などで吟行を行い、甲斐国を経て江戸へ戻る。
その吟行の旅行記が野ざらし紀行である。 」
寺を出て、万福寺参道を歩き、先程曲った交差点では直進すると、
国道に出る。
参道入口には「杉御坊」の大きな石碑がある。
国道に出たところのに左手に文政時代に建立された常夜燈があり、
その近くの民家の一角に、延命地蔵尊がある。
国道を甲府に向かって進むと、右側に白百合醸造がある。
ワイン工場見学と試飲ができると人気のようである。
栗原宿
白百合醸造を過ぎると、山梨市上栗原になる。
「 五街道細見には栗原宿は勝沼宿より三十丁(約3.3km)とあり、
小安、宿場の長さは六町(770m)で、
上栗を経由する場合は三十六丁となっている。
また、等々力には万福寺の記載があり、上栗原そして栗原宿と記載されている。」
六百メートル先の上栗原交差点では、左右の道が県道303号で、
右に行けば山梨市駅、左は一宮町へと続くが、甲州街道は直進する。
上栗原交差点を越えると山梨市下栗原になり、栗原宿があったところになる。
「 栗原宿の長さは六町(約700m)で、本陣が一、脇本陣が一、
旅籠が二十軒、家数は二百四十軒、人口は千五十余人だった。
毎月四、九の日に六斎市が立ち、物資の集散もあって、
茶屋などが立ち並び宿場は繁栄していたという。 」
しかし、今は古いものも残っていない。
また、宿場の雰囲気は少しも感じられない。
交差点を過ぎた左側の、「甲州街道栗原宿大戸屋」の看板だけが「栗原宿」を表示するものだった。
上栗原交差点を越えると、右側に大法寺があり、その先の右側に天神社があり、
ここを右に入ると右側に寺とは気づかない広い空地を持つ大翁寺がある。
大翁寺の境内一帯は、戦国時代この辺りを治めていた栗原氏の屋敷跡である、という説明板があった。
この一帯には萬福寺、大翁寺の東には海島寺などの多くの寺院がある。
大翁寺を出て、直進する細い道を進むと、右側に萬福寺があり、
道なりに進むと道路際に、「大宮五所大明神」と刻まれた石柱が建っている。
この神社は社殿の前がかなり広い板敷きとなっているが、
ここが舞台にもなる「歌舞伎造り」という珍しい建物である。
神社を出て南に五十メートル歩くと国道に出るが、ここに下栗原地区集落集会所がある。
この五所大明神参道入口の角は、かっては枡形になっていたようである。
甲州街道は国道には入らず、神社石柱の裏にある小道に入り、
ぶとう園の源屋園に突き当たるように直進する。
道は直角に左折し、火の見櫓の下で国道を横切り、そのまま進むと、
日川の土手に突き当たる。
土手に沿って右折して進むと、新日川橋の脇に出る。
江戸時代にはこの先から右斜めに向かう道があったが、
今はなくなっているので、新日川橋からきた道を右折して、
下栗原交差点に出る。
下栗原交差点で左折して、国道411号を進むと、山梨市歌田に変わり、栗原宿は終わる。